家を売ると決めた直後は、何から手をつければいいのか分からないものです。不動産会社に連絡するのが先なのか、その前に相場を調べるべきなのか。調べ始めると専門用語が次々出てきて、かえって動けなくなります。
不動産の売却は、大きく7つの段階に分かれます。厄介なのは、それぞれの段階で「決めること」が違い、しかも前の段階の判断が後に響く点です。媒介契約の種類を軽く選ぶと3ヶ月動けなくなり、売り出し価格を高く設定しすぎると値下げを繰り返すことになります。
この記事では7つの段階を順に追い、各段階で何を決めるのか、どのくらいの期間と費用がかかるのかを示します。読み終えたときに、自分が今どこにいて次に何を判断すべきかが分かる状態を目指しています。
STEP1 相場を自分で調べる
不動産会社に連絡する前に、売主自身が成約価格の目安を把握しておきます。
最初に査定を頼みたくなりますが、順番としては相場の把握が先です。相場観がないまま査定書を受け取ると、その数字が高いのか安いのか判断できません。査定額は「この価格なら売れるだろう」という不動産会社の予測であり、実際に成約した価格とは別物です。
調べる先は、実際の取引価格が公開されている公的なデータベースです。国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、エリアと条件を指定して過去の成約価格を確認できます。レインズ(不動産流通機構)も市況レポートを公開しており、東日本レインズによれば2025年の首都圏中古マンションの成約価格は平均5,200万円、成約件数は49,114件でした(出典: 東日本不動産流通機構、2025年)。
国土交通省「不動産情報ライブラリ」では、実際の成約価格がエリア・条件別に公開されています。このデータを見ると、同じような条件の物件でも取引価格には幅があることが確認できます。査定額はあくまで予測値なので、成約価格の「幅」を先に自分で掴んでおくと、複数社の査定額を比べるときの物差しになります。
自分の物件と条件を揃えて比べる
同じマンションでも階数と向きで価格は変わります。築年数の影響も大きく、東日本レインズの2025年データでは成約物件の平均築年数が26.58年でした。近隣の売り出し中の物件は「売主の希望価格」であって成約価格ではない点にも注意が必要です。
STEP2 査定を受ける
査定は複数社に依頼し、机上査定と訪問査定を使い分けます。売却の義務は生じません。
査定には2種類あります。物件情報だけで概算を出す机上査定と、実際に物件を見て出す訪問査定です。机上査定は早く手軽ですが、室内の状態やリフォーム歴が反映されないため、訪問後に金額が変わることがあります。
売ると決めていない段階でも査定は受けられます。多くの不動産会社は査定を無料で行っており、依頼したからといって売らなければならない決まりはありません。連絡が多くなるのを避けたい場合は、申込時の備考欄に連絡手段の希望を書いておく方法があります。
何社に頼むかで迷ったら
1社だけだと比較対象がなく、多すぎると対応が負担になります。3社前後で比べる人が多いようです。金額の高さだけで選ぶと、根拠のない高値を提示した会社に当たることもあるので、価格の説明が具体的かどうかを見ます。査定の受け方や匿名で依頼する方法は査定・不動産会社選びにまとめています。
STEP3 不動産会社を選ぶ
会社の規模よりも、自分の物件と事情に合っているかで選びます。
大手は広告力と店舗網、地域密着型は特定エリアの購入希望者情報に強みがあります。どちらが優れているという話ではなく、売る物件との相性の問題です。都心のマンションと郊外の古い戸建てでは、買主の探し方がまったく違います。
見るべきは担当者です。査定額の根拠を説明できるか、売却期間中の連絡方法を明示するか、質問への回答が具体的か。契約後に長く付き合う相手なので、最初のやり取りの質は判断材料になります。
仲介手数料の上限は宅地建物取引業法で定められており、売却価格400万円超の場合は「売却価格の3%+6万円+消費税」が法律上の上限です。法律が定めているのは上限だけなので、それより低い手数料の設定自体は禁じられていません。手数料の安さを打ち出す会社もありますが、広告費のかけ方や販売活動の内容が変わることもあるため、金額だけでなく何をしてくれるのかを確認しておくと判断しやすくなります。
STEP4 媒介契約を結ぶ
媒介契約は3種類あり、専任と専属専任は契約期間が最長3ヶ月に制限されています。
依頼する会社が決まったら媒介契約を結びます。種類は一般媒介、専任媒介、専属専任媒介の3つです。一般媒介は複数社に同時に依頼でき、専任と専属専任は1社に絞ります。専属専任では、自分で買主を見つけた場合でもその会社を通す必要があります。
1社に絞ると熱心に動いてもらいやすい一方、その会社の力量に結果が左右されます。複数社に頼むと競争が働きますが、各社の優先順位は下がりがちです。物件の売りやすさによって向き不向きが変わる部分です。
国民生活センターが公開している不動産関連の相談事例には、契約内容を十分に理解しないまま署名したことによるトラブルが含まれています。宅地建物取引業法第34条の2では専任媒介・専属専任媒介の契約期間を最長3ヶ月と定めており、この期間は原則として他社に切り替えられません。裏を返せば、3ヶ月ごとに継続するかどうかを判断できるということでもあります。署名の前に3種類の違いを押さえておくと、後から動けなくなる事態を避けられます。
契約前に確認しておくこと
販売活動の内容と報告の頻度を聞いておきます。専任媒介は2週間に1回以上、専属専任媒介は1週間に1回以上の業務報告が宅建業法で義務づけられています。広告をどこに出すか、レインズへの登録をいつ行うかも確認事項です。
STEP5 売り出しと内覧
売り出し価格の設定が、売却にかかる期間をほぼ決めます。
査定額がそのまま売り出し価格になるわけではありません。売主が決める価格です。高く設定すれば手取りは増えますが、問い合わせが来ない期間が続きます。反応がないまま値下げを繰り返すと、長く売れ残っている物件という印象がつきます。
東日本レインズの2025年データでは首都圏中古マンションの成約価格が13年連続で上昇していますが、これは市場全体の話であって、個別の物件が高く早く売れることを意味しません。自分の物件の条件に近い成約事例を基準にするほうが現実的です。
反応が無いときに見直すところ
内覧の申し込みが来ない場合は価格か情報の出し方に原因があります。内覧はあるのに決まらない場合は、写真と実物の差や室内の状態が影響していることが考えられます。売り出しから1ヶ月ほど経っても動きがなければ、担当者と原因を切り分けて対策を決めます。
STEP6 売買契約を結ぶ
買主が決まったら売買契約を結びます。手付金と契約不適合責任の範囲が要点です。
購入申込書を受け取り、価格や引渡し時期の条件がまとまると契約に進みます。契約時には買主から手付金を受け取ります。契約書に記載される内容のうち、売主にとって重みがあるのが契約不適合責任です。引渡し後に契約内容と異なる不具合が見つかった場合、売主が責任を負う範囲を定めた条項になります。
雨漏りやシロアリの被害、給排水設備の不具合など、知っている不具合は隠さず告知書に記載します。伝えたうえで契約に織り込むことが、引渡し後のトラブルを避ける現実的な方法です。契約書と重要事項説明書は当日に初めて読むのではなく、事前に写しをもらって目を通しておきます。
STEP7 引渡し・決済と確定申告
決済で残代金を受け取り、抵当権抹消と所有権移転を同時に行います。利益が出たら翌年に確定申告します。
決済日には、買主からの残代金の受領、住宅ローンの完済、抵当権抹消登記、所有権移転登記、鍵の引渡しが同じ場に集約されます。司法書士が立ち会い、登記を担当するのが一般的です。住宅ローンが残っていても、売却代金で完済できれば問題なく売れます。
売却で利益(譲渡所得)が出た場合は確定申告が必要です。国税庁によれば、譲渡所得の申告は資産を譲渡した日の属する年の翌年2月16日から3月15日の間に行います(出典: 国税庁 No.3102)。マイホームの売却には3,000万円の特別控除の特例があり、適用を受けるには要件を満たしたうえで確定申告をする必要があります。
税額の計算や特例の適用可否は個別の事情で変わります。判断に迷う部分は税理士や税務署に確認してください。
まとめ
- 不動産会社に連絡する前に、公的データで成約価格の目安を掴んでおきます
- 査定は複数社に依頼します。売ると決めていない段階でも依頼できます
- 会社選びは規模ではなく、物件と事情との相性、担当者の説明の具体性で判断します
- 専任・専属専任の媒介契約は最長3ヶ月です。署名前に3種類の違いを確認しておきます
- 売り出し価格の設定が売却期間を左右します。反応がないときは早めに原因を切り分けます
- 知っている不具合は告知書に記載し、契約不適合責任の範囲を明確にしておきます
- 利益が出た場合は、翌年2月16日〜3月15日に確定申告をします
よくある質問
不動産の売却にはどのくらいの期間がかかりますか?
売り出しから引渡しまで3〜6ヶ月程度が一つの目安です。ただし物件の条件と価格設定で大きく変わります。売り出し価格が相場から離れていると問い合わせが入らず、その分だけ長引きます。急ぐ事情がある場合は、不動産会社に直接買い取ってもらう方法もあります。仲介との違いは買取・急ぎの売却で扱っています。
売却するとき、最初に何をすればいいですか?
公的なデータで相場を調べることから始めます。国土交通省の不動産情報ライブラリで、自宅と条件の近い物件の成約価格を確認します。相場観を持ってから査定を受けると、提示された金額の妥当性を自分で判断できます。
住宅ローンが残っていても売却できますか?
売却できます。売却代金でローンを完済し、抵当権を抹消するのが基本的な流れです。決済日に残代金の受領と完済、抵当権抹消登記を同時に行います。売却額が残債を下回る場合は、不足分を自己資金で補うか、住み替えローンなどの選択肢を検討することになります。
参考文献
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ(取得日: 2026-08-13)
- 公益財団法人 東日本不動産流通機構(レインズ)不動産市場動向(取得日: 2026-08-13)
- 国税庁 No.3102 譲渡所得の申告期限(取得日: 2026-08-13)
- 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例(取得日: 2026-08-13)
- 国民生活センター(取得日: 2026-08-13)
